新収 魏晋南北朝唐宋考古文稿輯叢 ほか2011/08/01 18:34

宿白(著)『魏晋南北朝唐宋考古文稿輯叢』、文物出版社、2011年1月。
許逸民(校箋)『金楼子校箋』、中華書局、2011年1月。

前者は宿白氏がこれまで『文物』などに掲載してきた魏晋南北朝唐宋考古に関する論文を集めて整理したもの。古い記事でも自分にとっては北朝考古系でとくに興味深い記事が多い。金楼子は南朝梁の蕭繹の著作。南北朝史の研究者にはよく知られた本だと思っていたが、基本的に永楽大典にあつめられたものが今に伝わるもので、CiNiiiで検索するとこの書名を題名につけているのは日本語の論文では5点のみ。点校本がでるのははじめてだということで購入。典籍関係で興味深い記事がある記憶だったが、どちらかというと晋南朝の故事、志怪の記事が主体。また家訓的要素ももつとの先行研究の分析があるとおり。点校本がでたことでさらに今後頻用される気がする。

新収 趙和平敦煌書儀研究 ほか2011/08/02 18:59

趙和平(著)『趙和平敦煌書儀研究』上海古籍出版社、2011年3月。
李樹輝(著)『烏古斯和回鶻研究』民族出版社、2010年12月。
聶志軍(著)『唐代景教文献詞語研究』、湖南人民出版社、2010年9月。

『趙和平敦煌書儀研究』は当代敦煌学者自選集の一冊で著名な研究者の研究の来歴やその全体像を見渡すのに適した内容。敦煌文献のうち相当な量がある書儀研究の意義を総括した章のほか、社会生活や口語、政権との関係など多方面からみた各論が収録される。敦煌文献研究はこれまで日本などの東アジアの写本との比較をとおしてすすめられてきた側面をもつが、本書には正倉院文書(杜家立成雑書要略)との比較がふくまれる。

烏古斯はテュルク系民族で24氏族によって成り立っていたとされる「オグズ」のこと。北方諸民族との関係への言及もあるがとくに突厥とウイグルとの関係などについて研究がなされている。突厥文索引が付く。

景教文献詞語研究は著者の中山大学の博士論文をもとにしているという。敦煌漢文文献P.3847(景教三威蒙度贊・尊経)、一神論、志玄安楽経、大秦景教宣元本経、序聴迷詩所経、大秦景教流行中国碑などに用いられている語彙を他の宗教文献などと対比しながら分析したもの。中古音とシリア語との対比をしているところも若干みられる。中国の先行研究を中心に丁寧に紹介がなされている。洛陽の石幢への言及はあるが、一神論、志玄安楽経、大秦景教宣元本経、序聴迷詩所経が包含された敦煌秘笈への言及はない。すでに中国でも何本も敦煌秘笈に関連する論文が出ているがまだその認知度は低いようである

 欧文文献の引用が少なく前掲の高橋英海論文への言及もないが、近接した分析といえる。
http://iwamoto.asablo.jp/blog/2010/08/29/5313066

新収 輔行訣五蔵用薬法要伝承集2011/08/02 21:14

陶弘景(撰)張大昌・銭超塵(主編)『輔行訣五蔵用薬法要伝承集』、学苑出版社、2008年9月。

遅ればせながら購入。『輔行訣五蔵用薬法要』は敦煌医薬文献の一点とされるもの。張偓南氏が1918年に得て、孫の張大昌氏に伝えられたが、原巻は文革中に失われ、その内容を張氏やその弟子たちが書写した抄本数種が今に伝えられている。この本はその抄本21種(!)を収録し、考察をくわえたもの。抄本の写真も多数載せられている(ただし達筆すぎて読めないものが多い)。最初に公刊されたのは1998年の『敦煌医薬文献輯校』に収録されたもので、小曽戸先生の著書にも言及がある。内容的に見て唐代の処方の可能性が高いものが多数含まれるとされる。文革で破壊された文化財の一例と言えるが、この復原作業は失われた文化財をとりもどそうとするだけでなく、そこで失われた自分たちの時間をも取り返そうとする執念そのものにも思える。

王雪苔(編著)『輔行訣五蔵用薬法要校注考証』、人民軍医出版社、2010年5月(四刷)。

以上の抄本のうちとくに古いと思われる二点からテキストを作成、校注および考証を付したもの。前掲伝承集は本書に言及しており、一刷は2008年前半に刊行されたはずだが、なぜか第一次印刷の時期が省略されているので上記のようになった。なお、Webで調べた限りでは著者は鍼灸の大家として世界的に認知されており、日本語も学んでいた親日家であったようだが、2008年9月に歿している。

なお天漢日乗さんの「超あやしい敦煌写本」エントリーが参考になる。  どんな国の文化財であろうと、また悲劇的に破壊されたものであろうとそれを残して検証していくことが未来のためになるのだとは思う。

新収 東方学 第122輯2011/08/08 19:19

『東方学』第122輯、2011年7月

戸川貴行、東晋南朝における伝統の創造について―楽曲編成を中心としてみた

 渡辺信一郎氏によって掘り下げられてきたテーマである国家儀礼に不可欠な雅楽がもつ政治的イデオロギーに注目、とくに劉宋孝武帝にいたるまでの整備状況を分析したもの。またそこに付加されていった北朝期における『周礼』的要素を意識しつつ、南朝の「伝統」が南北朝隋唐政権の帝国理念の形成に与えた影響を視野に入れて論が展開される。
 南北朝隋唐論であり、中華的世界観の分析のひとつにもなっている。

 『新修本草』序例もこうした中華的世界観で書かれているわけで、個々の語彙の歴史をしるうえで勉強になる箇所もあった。

 まったく雑感ではあるが、様々な言語でまた様々な形での「史料」が増大しつつある昨今、王朝の世界観の発展やその変化によって中国史を語ることの現代的意義、またそれを「中国」に住んでいない日本の研究者が語る意義は、熟考する必要があると思っている。史書から取り出された世界観は権力の本質を分析する一視点として有効である。
 ではそこからみいだされるものが「歴史」なのか。もっと多彩な視点からその時代を描けるのではないか。その視点のおきかたを自分で考えてみることが目下の関心である。

拝受 政治空間より見た後漢の外戚輔政 ほか2011/08/08 22:35

渡邉将智、政治空間より見た後漢の外戚輔政―後漢皇帝支配体制の限界をめぐって、『早稲田大学大学院文学研究科紀要』第56輯、2010年。
渡邉将智、後漢洛陽城における皇帝・諸官の政治空間、『史学雑誌』第119編第12号、2010年。

渡邉さんからいただいた。ありがとうございました。後者は先に紹介している。ともに史料と考古学的報告に依拠した「政治空間より見た」という視点が際立っている。
http://iwamoto.asablo.jp/blog/2011/02/10/5674168

今日は立秋だったが暑かった。某大学内はO Cでまるで高校のよう。メインストリートを歩く私に大学ロゴの入った団扇を渡そうとする大学生は、私を高校教師と間違えたのであろう。ここに来た当初は浪人を繰り返した老けた新入生にでも間違えられたか、それとも怪しい団体なのか、新歓の声をかけられたたこともあった(笑)。まあそのときも今日も喜ぶはずもなく、見る目がおかしいのではないかと相手の顔をまじまじとみてしまうわけだが。

新収 越後の大名2011/08/08 23:52

(図録)『越後の大名』新潟県立博物館、2011年7月。

現在展示中の企画展の全111頁のカラー図録。1000円もしないことに驚く。
 越後一国を統治した堀秀治そして松平忠輝の改易のあと、小藩分立となった時代を焦点に当てて企画されたもの。
 糸魚川藩、高田藩、椎谷藩、長岡藩、与板藩、三根山藩、村松藩、新発田藩、三日市藩、黒川藩、村上藩と小藩(高田、長岡、新発田、村上はそれなりの規模がある)に関する資料もまんべんなく収められている。個人的に興味のある典籍とか朝鮮、中国に関するものはないが、新潟大学所蔵資料がかなり使われており、驚く。
 何点か変わり兜の類があったりして、純粋に武将物が好きな人にも子供連れにもおすすめできそうな内容である。
 県博は長岡にあり、駅からも離れているわけだけだが、8/21まで長岡駅近くの商工会議所で「長岡藩主牧野家の至宝展」が同時に開かれているそうなので、一日かけて長岡の博物館巡りとするのが長岡市のおすすめってことなのだろう。

拝受 水経注疏訳注2011/08/18 19:15

財団法人東洋文庫中国古代地域史研究班(編)『水経注疏訳注・渭水篇(下) 』(東洋文庫論叢74)東洋文庫、2011年3月。

研究班からいただいた。ありがとうございました。研究班の講読会による成果である水経注疏の現代語訳を中心に、解説、テキストの影印、地図などが含まれる。

解説・論考部分は以下のとおり。

窪添慶文、魏晋南北朝時期の長安
池田雄一、『水経注疏』関係檔案と同書稿本
池田雄一・多田狷介・石黒ひさ子・山元貴尚、傅斯年図書館所蔵『水経注疏』関係の檔案
太田幸男、陳橋駅先生との会見記
多田狷介、西安考古訪問記

渭水篇(上)
http://iwamoto.asablo.jp/blog/2008/05/23/3538371

以下個人的雑記
 昨年まではCO2削減、今年は節電など様々な理由が付いて、ここ数年、決まった期間に全教職員半ば強制的に休暇を取ることになっている。ただその施策には単に右向け右的な雰囲気を感じないでもないがやむを得ない。その間、きわめて短期間ではあったが帰省した。盆や法事を意識しなくてはならない身になったこともある。
 しばらく空調をつかわなかったためか、ろくに運動もせず歳ばかりとったせいか、新幹線のきつい空調や太平洋側の気候の落差には適応できなかったようで、ひどいめまいとともに体調を崩す。ついでに以前デスクトップを廃しメインマシンにしたノートがブルースクリーン頻発。なんとか窮地は脱したがOSが起動せず。MBRの破損かと思い、bootrec等のコマンドをつかったが起動せず。Windowsはいつも安全な機械なんてないことを勉強させてくれる。おかげでバックアップと代替準備は完璧。ただ使いやすい環境の再構築には時間がかかる。パフォーマンスが落ちたのは否めない。
 暑さと不安定な体調、そして焦燥感にさいなまれる。

拝受 『汝南先賢伝』の編纂について2011/08/18 23:05

永田拓治、『汝南先賢伝』の編纂について、『立命館文学』第619号、2010年12月。
永田拓治、周斐『汝南先賢伝』輯本、『大阪市立大学東洋史論叢』第17号、2010年12月。

永田さんからいただいた。ありがとうございました。
 これまで魏晋南北朝期の門閥社会における郷里意識の現れであるとか、各地域の自己顕示などと捉えられてもきた数多くの「耆旧伝」「先賢伝」といった著作(ほぼ散佚)のうち、まとまった佚文が確認できる『汝南先賢伝』をとりあげ、その性格を論じたもの。「故人の事蹟を記録した人物伝が当該社会においてどのように機能し、その社会的役割を果たしていたか」に焦点をあてて論じられている。門閥社会論のみならず史学史的にみても興味深い題材。
 後者はその輯本。逐条、注釈が付され、巻末に参考文献一覧、索引、地図などがつく。B5版で53ページにもおよぶ労作。

新収 必携古典籍古文書料紙事典2011/08/19 17:26

宍倉佐敏(編著)『必携 古典籍・古文書料紙事典』、八木書店、2011年7月。

 東アジア(特に日本)の古文書・古典籍の料紙の製法、調査方法などを網羅的に解説したもの。様々な方面で料紙の調査をしてきた20名が執筆。カラー図版多数。附録は「繊維判定用和紙見本帳」と「簀目測定帳」といういたれりつくせりぶり。本体453ページ。お値段は10000円+税だが、この内容なら安い(ただし古典籍・古文書研究者に限る)。

目次はこちら (八木書店)
http://www.books-yagi.co.jp/pub/cgi-bin/newbooks.cgi?cmd=d&kn=20&ks=978-4-8406-2072-7

拝受 東晋南朝における建康の中心化と国家儀礼の整備について2011/08/21 13:38

戸川貴行、東晋南朝における建康の中心化と国家儀礼の整備について、『七隈史学』第13号、2011年3月。
戸川貴行、東晋南朝における伝統の創造について―楽曲編成を中心としてみた、『東方学』第122輯、2011年7月 。

戸川さんからいただいた。ありがとうございました。
 前者。江南に立脚した南朝史の理解のために「矯民の土着化」に注目し、当初は仮住まいとされていた江南における国家儀礼の整備と建康の中心化の過程をおう。
 はじめに、ではこれまでの東晋南朝史の視角について論じるが、「制度・思想などを積極的に評価する姿勢」と「国家の制度・思想如何といった点から」、各種先行研究の限界や問題点をあげる。ただこの論法では最初から東晋南朝史の手法が「国家の制度・思想などを積極的に評価する姿勢」に限定されているわけだから、そうでない先行研究に問題点が見出されるのは当然であろう。
 自分には国家儀礼の整備過程の検証も歴史学の一視点になる(先行研究であきらか)というくらいが妥当に思えるのだが。後者は前掲。