拝受 なぜ和歌を詠むのか 菅江真澄の旅と地誌2012/02/13 21:17

錦仁(著)『なぜ和歌を詠むのか 菅江真澄の旅と地誌』、笠間書院、2011年3月。

錦先生からいただいた。ありがとうございました。タイトルからは国文学、副題からは民俗学的な感触を受けるが、中を拝見すると、次のような言葉がある。

「国文学も民俗学も歴史学もそれぞれに独自に存在するが、私たちを束縛するためにあるのではない」

ここからもわかるように国文学や民俗学だけでなく歴史学の研究者からみても興味深い視点がいくつもみられる。分野のやり方がどうのというのでなく対象に注ぐ視点の置き方の柔軟さにこだわっておられるように読んだ。また秋田藩および佐竹家に関わる資料的研究としてみても興味を引く箇所が多数ある。

笠間書院の本書紹介ページ(詳細な目次あり)
http://kasamashoin.jp/2011/01/post_1653.html

Ⅰ 新しい眼で真澄を捉える
Ⅱ 真澄の旅--なくてはならない和歌
Ⅲ なぜ地誌を書いたか--藩主とのかかわり
Ⅳ 地誌を生みだす和歌

新収 『東方学』第123号2012/02/05 14:13

『東方学』第123号、2012年1月

論文8点、学会情報2点、座談会、追悼文などが載る。
個人的に関心があったのは以下のもの。

三浦國雄、『朱子語類』の読まれ方―新発田藩の一儒者の書き入れをめぐって
新見まどか、唐代後半期における「華北東部藩鎮連合体」
伊藤一馬、南宋成立期の中央政府と陝西地域―「宋西北辺境軍政文書」所見の赦書をめぐって

高田時雄、ロシア科学アカデミー東洋写本研究所と『東洋の文献遺産』誌など
金子修一、中国留学と二つの学会

学問の思い出―池田温先生を囲んで(座談会)

三浦論文は新発田藩の典籍・人物を扱う。新発田藩はとくに藩版などの江戸の出版や教育に関する研究者のほか、宋明清期の思想および書誌学研究者にとって魅力ある題材が非常に豊富なのだが、資料散逸の度合いがひどく、全体像がまるでつかめない。新発田市立図書館に行ってもアレ?とおもうわけである。そういうわけで以前いくつか論文を書き、その蒐集散逸過程を整理中である。
伊藤論文はロシア蔵コズロフ将来文書の実見調査を踏まえた内容。
敦煌吐魯番学の方面からも読み応えのある号だった。池田温先生の主要著作目録が付されている。

新収 江戸の本屋と本づくり2012/01/23 18:57

橋口侯之助、『江戸の本屋と本づくり(続・和本入門)』(平凡社ライブラリー)、平凡社、2011年10月。
中野三敏、『和本のすすめー江戸を読み解くために』(岩波新書)、岩波書店、2011年10月。
大澤顕浩(編著)『東アジア書誌学への招待 第一巻』(学習院大学東洋文化研究叢書)東方書店、2011年12月。

いずれも勉強になった。『江戸の本屋と本づくり』は書物の価格の決め方などに詳しい記述がある。ただ中国の本について言及した段に、中国では「文字の書かれた紙は大切にされていた」とあって、それに対して日本は云々とあるのだが、違和感があった。いずれの国でもそれらを守るものと破壊するものとが常にいたわけだから。識字層を考えても・・・そういちがいに対比はできないだろう。
『東アジア書誌学』はこれまで調べたあるものがちょっと学習院(大学ではない)に関係があるものであったため手に取った。手がかりのようなものは見つけられた。
いずれもどこが興味深くて購入したのか書きたいのだが、ちょっと時間がない。

新収 必携古典籍古文書料紙事典2011/08/19 17:26

宍倉佐敏(編著)『必携 古典籍・古文書料紙事典』、八木書店、2011年7月。

 東アジア(特に日本)の古文書・古典籍の料紙の製法、調査方法などを網羅的に解説したもの。様々な方面で料紙の調査をしてきた20名が執筆。カラー図版多数。附録は「繊維判定用和紙見本帳」と「簀目測定帳」といういたれりつくせりぶり。本体453ページ。お値段は10000円+税だが、この内容なら安い(ただし古典籍・古文書研究者に限る)。

目次はこちら (八木書店)
http://www.books-yagi.co.jp/pub/cgi-bin/newbooks.cgi?cmd=d&kn=20&ks=978-4-8406-2072-7

新収 越後の大名2011/08/08 23:52

(図録)『越後の大名』新潟県立博物館、2011年7月。

現在展示中の企画展の全111頁のカラー図録。1000円もしないことに驚く。
 越後一国を統治した堀秀治そして松平忠輝の改易のあと、小藩分立となった時代を焦点に当てて企画されたもの。
 糸魚川藩、高田藩、椎谷藩、長岡藩、与板藩、三根山藩、村松藩、新発田藩、三日市藩、黒川藩、村上藩と小藩(高田、長岡、新発田、村上はそれなりの規模がある)に関する資料もまんべんなく収められている。個人的に興味のある典籍とか朝鮮、中国に関するものはないが、新潟大学所蔵資料がかなり使われており、驚く。
 何点か変わり兜の類があったりして、純粋に武将物が好きな人にも子供連れにもおすすめできそうな内容である。
 県博は長岡にあり、駅からも離れているわけだけだが、8/21まで長岡駅近くの商工会議所で「長岡藩主牧野家の至宝展」が同時に開かれているそうなので、一日かけて長岡の博物館巡りとするのが長岡市のおすすめってことなのだろう。

紹介 越後の大名 展覧会2011/07/14 00:14

 ここ10年にみたうちでずばぬけて格好のいいポスターデザインだと勝手に思ったので、例外的にアップしてみた。

夏季企画展「越後の大名」
 2011年7月30日(土)~9月11日(日)
新潟県立歴史博物館
http://www.nbz.or.jp/jp/index.html

 単に鎧から個人的に連想することで全然関係ない話だが、自分が正史を用いて書いた論文の抜き刷りを日本中世史専攻の友人に渡したところ、六国史のような正史中心で書いた論文に意味があるのかといわれ、愕然とした記憶がある。中国古代史は基本的に正史編纂史料の背景まで読み込み、雑史もまじえて多角的に論証するもので、日本とは識字層や史館(官)制度、残された史料の字数にも著しく差があると応酬したものの、「後世に記録として残すことを意図していない史料を読み込むことではじめて可能になる歴史叙述」が成り立ちうるのは当然で、それが彼が属する世界の「常識」で、自分は異なる「常識」の中にいたわけである。
 そして何十年後かに同じ日本中世史分野の著名な先生にあなたの専門とする時代に貴族でも豪族でも土地の有力者でもなく、過酷な状況から逃げてでも生き延びようとした「名前さえ残らないような人たち」に関する史料はないかといわれ、かんがえさせられることがあった。この先生はそういう人たちの生命力みたいなのをうまく描きだすのだが、私には思うような史料は提供できなかった。たしかに両国間で伝存した史料には歴然とした性格の差がある。「中世」とかいったって800年以上離れているわけだ。ただそういってしまえばそれまでではある。
 ともかく自分のいる世界の「常識」はいつもうたがってみたほうがおもしろいものがみえてくるのだと思っている。

拝受 第56回 杏雨書屋特別展示会図録2011/07/12 00:57

『第56回 杏雨書屋特別展示会図録―田中彌性園文庫から見た近世大阪の医学』、武田科学振興財団、2011年4月

杏雨書屋からいただいた。ありがとうございました。全75頁の薄い展示会用図録。フルカラー。展示会時期でなくてもいただけるようである。

彌性園とは大阪に400年つづいた医家、田中氏の薬草園や屋敷などの遺跡のことでその古書籍古文書が杏雨書屋に文庫として保管されることになったということのようである。

木村蒹葭堂や頼三樹三郎、曲直瀬道三、伊藤仁斎などの近世著名人の書簡のほか、正徳刊本の『奇効良方』をはじめとした中国刊本、現存写本のきわめて少ない南宋医書や『福田方』などの写真・解説がずらりと並ぶ。

こちらの紹介が詳しい。「世界でも中国・台湾・香港を除くとたぶん100人くらいしか興味のなさそうな話」といえばそうかもしれません。
http://iori3.cocolog-nifty.com/tenkannichijo/2011/04/post-acbe.html

なお、関西遠征のついでにマニ教関連の特別展示を見に行った際、購入しようとした大和文華館の特別展図録および美術研究誌『大和文華』はすべて売り切れだった。もちろん先月の話である。

http://www.kintetsu.jp/yamato/exhibition/50th_2.html
http://www.kintetsu.jp/yamato/shuppan/yamatobunka.html

拝受 杏雨 第14号2011/07/10 00:38

杏雨書屋『杏雨』第14号、2011年6月。

(所蔵資料翻刻)
古泉圓順 『薬種抄二』

(講演録)
岡野誠、唐宋史料に見る『法』と『医』の接点
池田温、敦煌秘笈の価値
太田由佳、本草家松岡恕庵の生涯と学問
辻本雅史、貝原益軒の思想世界

(論文)
黒田彰、杏雨書屋本太公家教について
岩本篤志、『新修本草』序例の研究
橘堂晃一、清野謙次旧蔵敦煌写本の一断簡によせて
田中圭子、東山御文庫所蔵「薫物調合秘方」解説と釈文

(奨励論文)
秋月武児、紀州の本草家畔田翠山の研究
白井順、三木文庫調査報告

杏雨書屋からいただいた。ありがとうございました。
 全532頁。巻末には前号同様杏雨書屋所蔵資料(敦煌秘笈含む)閲覧の際の申請手順などが記されている。

 掲載されたいずれもが杏雨書屋所蔵資料に関係する分析が示される。岡野(羽20)、池田(特に羽63、羽27-1)、黒田(羽664)、岩本(羽40)、橘堂(羽570)が特に敦煌秘笈に関する内容。律令関係・社会経済史料・童蒙書・本草書・仏教経典とバラエティに富む。羽570、羽664は図録未公刊部分だが展示会で出品され、パンフレットに掲載されている。
 三木文庫は朝鮮医学史のみならず敦煌医薬文献研究にも大きな足跡を残した三木栄旧蔵書による。岡野講演録は前掲 http://iwamoto.asablo.jp/blog/2011/07/07/5946400 

 なお拙稿、注10)の末尾の一文は誤りなので訂正してください。L2371は新番号でなく臨2371と同じく旧番号。国家図書館蔵『新修本草』断片「旧:L2371」は現在、「BD12242」として整理されており、2009年後半に刊行された『国家図書館蔵敦煌遺書』に収録・公開済み。

新収 日本医史学雑誌 第57巻第2号2011/06/23 00:31

『日本医史学雑誌』 第57巻第2号、2011年6月

 日本医史学会総会の演題の要旨が90点、載る。

天野陽介・小曾戸洋・町泉寿郎、『医学天正記』異本類の比較研究
真柳誠、『素問』の早期版本について
楊歓、唐代『張仲景傷寒論』の検討
多田伊織、唐代の散逸医書『古今録験方』から見た六朝期の散逸医書『僧深方』
遠藤次郎・鈴木達彦、新発見の医書『江春記抜書』と田代三喜
竹内尚、聿修堂の蔵書目録について

このほかにも興味深いものがたくさん掲載される。

新刊 高田藩榊原家書目史料集成2011/06/17 23:18

朝倉治彦(監修)浅倉有子 岩本篤志(編集・解説) 花岡公貴(解説)『高田藩榊原家書目史料集成』全4巻、ゆまに書房、2011年3月。

http://www.yumani.co.jp/np/isbn/9784843335789

 「御書物虫曝帳」のほか、これまで公表されていなかった未公刊資料多数。目録学的見地から目録を編年的に排列構成し、榊原家の蔵書の聚散過程の見取り図となることを企図した。また「榊原家御系図」は榊原家略本紀にあたる基本史料で、今後研究に欠かせないものとなるであろう。
 第3巻(浅倉・岩本)と第4巻(花岡)に解説を、第3巻に資料索引をおさめ、とくに索引はゆまに書房編集部の念入りなご支援も得てきわめて詳細なものとなった。まず書誌学的な研究には役立つはずである。

第1巻『榊原家(村上)御書物虫曝帳』
 御書物虫曝帳

第2巻『榊原家(姫路・高田)書物目録』
 御書物入目録帳
 一ノ印長持並棚之内惣体外ニ有之御書物帳
 箪笥入御書物帳
 御書物虫干目録
 播州姫路城図
 君公御蔵目録
 御書物役心覚書
 本丸御殿絵図
 高田修道館絵図

第3冊『近代の榊原家・修道館関係目録』
 修道館蔵皇典書目
 御宝蔵納御記録覚帳
 原田家古文書目録
 榊神社古書類目録草稿
 室井常領翁寄付古書類目録草稿
 清水広博翁寄付古書類目録草稿
 清水広博翁家門先代ヨリ伝来殿様御書目録
 清水広博翁着用衣類遺物目録
 庄田家寄付採納願付目録
 修道館文庫目録
 榊原政敬家蔵書目録
 榊原政春氏所蔵図書目録
 榊原家ヨリ購入ノ図書目録

第4冊『榊原家御系図』
 榊原家御系図

 浅倉、花岡先生は日本近世史専攻でとくに高田藩に関してはエキスパートである。日本史、国文の研究者にはもちろん、また江戸時代の東アジア交流史にも有用だと思う。
 
関連情報
http://iwamoto.asablo.jp/blog/2010/06/13/5158376
http://iwamoto.asablo.jp/blog/2009/09/03/4559730

[正誤] (今後も追加していきます)

索引 主国合結記 → 主図合結記