『追憶 森本淳の思い出』2010/12/03 00:49

 彼と僕とは一歳違いである。彼の案内で数時間、2人で北京を歩いた記憶がある。わずかな記憶だが、中国語のことや自分のことを話す彼は僕には輝いてみえたし、実に楽しそうにみえた。そういう彼の快活さはいろんな人をつなげ、多くの人の気持ちを動かしていた。それがこの本に現れている。
 しかし、快活にみえた彼は、実際は私の同世代や少し下の世代にのしかかっているとみえる社会的な歪みを感じ、それに苦しんでいたようでもある。あらためて哀悼の意を表します。

新収 西域中外文明交流的中転站2010/12/08 17:38

香港城市大学中国文化中心(編)『西域中外文明交流的中転站』香港城市大学出版社、2009年7月。

香港城市大学中国文化中心講座による企画。第一線の研究者がそれぞれのテーマに関する研究のあらましを執筆したものである。先行研究の引用は最小限になっており、読者としては研究者よりも一般~大学院生が意識されているようである。

霍巍、中古時期的「高原絲綢之路」―吐蕃与中亜南亜的交通
蔡鴻生、西域獅子的華化形態
柴劍江、敦煌方志写本的地域特色
金文京、敦煌『舜子変』与広西壮族師公戯『舜児』
栄新江、絲綢之路上的粟特商人与粟特文化
趙豊、吐魯番吐魯番地区紡織品的発現与研究
斉東方、碰撞与融合―絲綢之路上的外来金銀器
林海村、漢代西域芸術中的希臘文化因素
張広達、唐代的豹猟―文化伝播的一個実例

新収 張広達文集2010/12/09 23:20

張広達(著)『文本 図像与文化流伝』(張広達文集)、広西師範大学出版社、2008年7月。
 目次:http://www.frelax.com/scdb/mulu/8/WBTX273588c1.html

張広達(著)『史家 史学与現代学術』(張広達文集)、広西師範大学出版社、2008年7月。

前者。20世紀に大量に出土した中古時代(魏晋南北朝隋唐)期の考古資料の分析を主体とする著者の論文を集めている。マニ教、ソグドなどに関する論文も少なくない。一つ前のエントリにあげた「唐代的豹猟」が収録されている。
後者。王国維、内藤湖南、シャバンヌ、バルトリド、向達、ウィットフォーゲル、エバーハルトなどの史学者に関する知見を示した文章や様々な分野の歴史研究書に関する書評から成る。

3部作のうちのもう一冊、『文書、典籍与西域史地』(敦煌吐魯番文献研究を主体とする)は出版されてまもなく購入。著者の学問の体系がつかめるように構成されている。
http://iwamoto.asablo.jp/blog/2008/10/29/

新収 帰義軍史事考論 他2010/12/11 02:38

趙貞(著)『帰義軍史事考論』北京師範大学出版社、2010年4月。
劉進宝(編著)『敦煌文物流散記』甘粛人民出版社、2009年11月。

前者。購入してから結構時間がたったが、まだ読了していない。ただ先行研究の引用のしかたや論文の構成をみるに、帰義軍史研究において重要な研究書であることをうかがわせる。占筮書や葬書に関する分析も含まれており、中国における新しい歴史学の潮流の一書ともいえそうである。

後者。敦煌文献が世界中に流散した過程が要領よく整理されている。ただ、これに先行する同じテーマを扱った概説書は他にも存在する。

拝受 古代ペンジケントの壁画と彫塑 他2010/12/13 23:36

P.I.コストロフ(著)『古代ペンジケントの壁画と彫塑』(山内和也(編)杉里直人・影山悦子(訳)、中央アジア文化遺産保護報告集・第2巻)東京文化財研究所、2010年。
サイドムロド.ボボムロエフ・山内和也(編)影山悦子(編集補佐)"Wall paintings from the kakhkakha sites" (『カフカハ遺跡群出土壁画』、中央アジア文化遺産保護報告集・第6巻)タジキスタン共和国アカデミー歴史・考古・民族研究所・東京文化財研究所、2010年。

影山さんが配布してくださった。ありがとうございました。前者は
Костров П. И., Техника живописи и консервация росписей Древнего Пянджикента, в книге: Живопись Древнего Пянджикента, Москва., 1954、の翻訳

目次は以下の通り。
古代ペンジケントの絵画と彫塑の研究、復元の試みと保存
1.壁画の修復と屋内処置
2.壁画の研究
3.第Ⅱ神殿の塑像のあるフリーズ
4.炭化した木彫断片の保存

後者は前言、凡例以外は英語とロシア語で記されている。1970年代から1980年代におこなわれたソグド地区シャフリスタン村近辺のカライ・カフカハI遺跡の調査で城塞内の領主の館から発見された壁画に関する資料集。

両方とも精緻なスケッチ、図版、写真が多数。
 なお、東京文化財研究所による「中央アジア文化遺産保護報告集」は2009年に第1巻がでている。内容、ボリュームから考えると驚異的な仕事量である。

拝受 新発現のブンブグル碑文とモンゴル高原の覇権抗争2010/12/14 22:00

鈴木宏節、新発現のブンブグル碑文とモンゴル高原の覇権抗争―カルルクから見た八世紀中葉の北アジア、『遼金西夏研究の現在』(3)、2010年6月。

鈴木さんからいただいた。ありがとうございました。2004年にモンゴル国バヤンホンゴル・アイマグ、ブンブグル・ソムで発見された突厥碑文に関する研究。

新収 西域研究 2010年第4期2010/12/15 23:17

『西域研究』2010年第4期、2010年10月。

 張銘心・陳 浩、唐代郷里制在于闐的実施及相関問題研究―以新出貞元七年和田漢文文書為中心
 趙暁芳、論唐朝対西州仏教的管理
 郭萍、従克孜爾石窟壁画看亀茲地区粟特芸術的伝播

新収 新アジア仏教史05中央アジア―文明・文化の交差点2010/12/16 21:53

奈良康明・石井公成(編)『新アジア仏教史05中央アジア―文明・文化の交差点』佼成出版社、2010年10月。

脱稿後の著者の先生お一人の発表を拝聴させていただく機会があり、まもなく購入。

シリーズ一覧と目次はこちら。Flashになっている。
http://www.kosei-shuppan.co.jp/ajibutsu/overview/

第1章 インダス越えて―仏教の中央アジア (山田明爾)
第2章 東トルキスタンにおける仏教の受容とその展開 (橘堂晃一)
第3章 中央アジアの仏教写本 (松田和信)
第4章 出土資料が語る宗教文化―イラン語圏の仏教を中心に― (吉田豊)
第5章 中央アジアの仏教美術 (宮治昭)
第6章 仏教信仰と社会 (蓮池利隆・山部能宜)
第7章 敦煌―文献・文化・美術 (沖本克己・川崎ミチコ・濱田瑞美)

このほかコラムが六点(シルクロードと仏教と楽器、略奪と文化財保護、スウェン・ヘディンの軌跡、西夏文字、日本の西域調査、辺境詩の伝統ー西域を詠じた漢詩)。第4章はソグド、ゾロアスター教、マニ教、キリスト教(景教)研究に関わる内容。
 このシリーズは1970年代刊行の『アジア仏教史』の新版として刊行されており、解説によると、この巻は「中国編5 シルクロードの宗教」の後継に位置づけられるようである。
 そのほか1980年代半ばには『講座敦煌8 敦煌仏典と禅』、『講座敦煌 6 敦煌胡語文献』が刊行されているが、それ以後、どういった資料が発見、解読され、研究がどのように進展したのかを把握できる内容になっている。

 すでにいろんなサイトで紹介されているようだ。胡語文献ブームが来る(来ている?)のだろうか。・・・

新収 汲古 第58号2010/12/19 04:05

『汲古』第58号、2010年12月。
 河野貴美子、北京大学図書館蔵余嘉錫校『弘決外典抄』について
 会田大輔、『魏鄭公諫録』の成立について―『明文抄』所引『魏文貞故事』との比較を通じて

ともに書誌学、目録学的にスタンダードな手法を用いた新しい研究。

 話をしたことがあるせいもあるが、会田さんの狙いはよくわかる。ここ2,3年で志向を変えたように思えるが、個人的にはこちらが予測できない新展開を期待したい。

 数日又は数週間前に、抜き刷りや雑誌、さらには御著書をいただいたり、自分の研究にきわめてインパクトの大きな大著を購入したりもしているのだが、丁寧に読まなくてはとおもっていると、読む時間がなくて、まだここに紹介できていない。

 すでにこのサイトをみている方はご存じのように、ネット上には魏晋南北朝隋唐時代関係だけでも鎖(リンク)をつけがたい猫的(無記名、自由人な)読書ブログがいくつもある。読書記録とは違う方向のブログもあるし、著名な研究者なのに匿名なサイトも、研究者ではない人もいるようだ。これからもリンクしませんけど、よろしく。

拝受 ユーラシアの交通・交易と唐帝国2010/12/20 01:45

荒川正晴(著)『ユーラシアの交通・交易と唐帝国』、名古屋大学出版会、2010年12月。

 荒川先生からいただいた。ありがとうございました。書影はあとで掲載予定。
 『古代天山の歴史地理学的研究 』『西突厥史の研究』に連なる待望の一冊。
 日本の研究者は敦煌吐魯番関係で数多くの論文を発表している。ただそのわりには研究書にまでなったものは少ない気がする。(敦煌吐魯番文献を利用した均田制関係の研究書はすでにたくさんある)。
 しかし、「歴史を叙述」しなくてはならない立場にある者としては、研究者が史料とどのようにむきあい、個々の史料分析をどのような構想の中に組み込んでいくのかこそ知りたいし、そこに研究のオリジナル性がある。新書やブックレットではそういった構造物にまでは至り得ない。おもしろい「建物」をみることは大変刺激になる。
 ざっとみているだけでもいろんな仕掛けがあるようで、読み進めていくのが楽しみです。
 
序言 本書の視角と課題

第I部 トルコ系遊牧国家とオアシス国家
 第1章 トルコ系遊牧国家の成立と交通システム
 第2章 オアシス国家・遊牧国家とソグド人
 第3章 オアシス国家の接待事業と財政基盤

第II部 唐帝国とユーラシア東部の交通体制
 第4章 唐代公用交通システムの構造
 第5章 唐代河西以西の交通制度(1)
 第6章 唐代河西以西の交通制度(2)

第III部 唐帝国と胡漢商人の移動・交易
 第7章 唐帝国と胡漢の商人
 第8章 唐の通過公証制度と公・私用交通
 第9章 唐の河西以西への軍物輸送と商人
 第10章 唐の支配と交易・経済環境の変動

小結
結語

以下のサイトにさらに細かな目次がある。
http://www.unp.or.jp/ISBN/ISBN978-4-8158-0651-4.html

本文は横書き、頁毎に脚注、漢文は原文と現代訳を提示する形になっている。