新収 唐代史研究 第14号2011/09/20 20:45

唐代史研究会(編)『唐代史研究』第14号、2011年8月。

巻頭言(佐藤智水)

○“敦煌の社会と文化”2010年度夏期シンポジウム特集
山口正晃、敦煌学百年 
岩本篤志、敦煌秘笈「雑字一本」考-「雑字」からみた帰義軍期の社会-
伊藤美重子、敦煌の学郎題記にみる学校と学生
荒川正晴、唐の西北軍事支配と敦煌社会

○書評・新刊紹介
津田資久、渡邊義浩著『西晋「儒教国家」と貴族制』
森部豊、荒川正晴著『ユーラシアの交通・交易と唐帝国』
村井恭子、森部 豊著 『ソグド人の束方活動と東ユーラシア世界の歴史的展開』

○国外学会参加報告.
佐川英治、中古時代的礼儀、 宗教与制度学術研討会
關尾史郎、「高台魏晋墓与河西歴史文化国際学術研討会」 参加記

○2010年唐代史研究会会員成果目録
○会員近況報告
○彙報

以上、全目次。
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以下、拙稿「敦煌秘笈「雑字一本」考」の反省点。
 敦煌秘笈のうち、内容、年代不明の一点を歴史空間の中に位置づけ、それを史料として敦煌社会を論じようとしたもの(一次利用面:894-905年頃の敦煌の官吏用識字手本またはその書写、二次利用面:965年9,10月分と978年2月から数ヶ月分の具注暦日の下書きと比定)。単純な内容のはずなのに、構成も文章もいまひとつなめらかでない。少々熟成不足の感はある。またP.30にあげた「衙前子弟」については、荒川正晴著『ユーラシアの交通・交易と唐帝国』のなかに有益な指摘がある(旧稿は未確認)のだが、最近まで気づかなかった。総じて語彙分析には不十分な点を多々残したので、今後も検討を続けていくことにしたい。
 書き落としてしまったが、拙稿は科研費・若手研究(B) 「唐五代期における実用典籍の読者層の研究ー中国西北出土古文献を中心に」(研究課題番号:21720257)の成果の一部である。

拝受 比較儀礼論 ほか2011/09/20 19:25

榎本淳一、比較儀礼論、石井正敏他(編)『日本の対外関係2 律令国家と東アジア』、吉川弘文館、2011年5月。
榎本淳一、藤原仲麻呂と女楽、武光誠(編)『古代国家と天皇』同成社、2010年11月。
榎本淳一、『隋書』倭国伝について、大山誠一(編)『日本書紀の謎と聖徳太子』平凡社、2011年6月。
ENOMOTO Jun'ichi,Japan's Ritsuryo System in the "East Asian World",ACTA ASIATICA 99,2010.

榎本先生からいただいた。ありがとうございました。
 「比較儀礼論」は推古朝の迎賓儀礼に当時の隋唐的要素より南朝的要素をみいだすことができることを論じる。「藤原仲麻呂と女楽」は日本古代において女楽の下賜(献上)が伎女の演舞を見ることであったのか、人そのものを下賜したのか、東アジアの状況を踏まえて、その解釈を問い直したもの。「『隋書』倭国伝について」は『隋書』倭国伝の史料的な性格を論じたもので、その記事内容の分析から、史料批判の際に留意すべきことを指摘する。Japan's Ritsuryo System・・は、日本における律令の受容、運用を当時の国際間において中心的な役割を担っていた中国を中心とした東アジアの事象と比較しながら、またその関係を論じたもの。
 いずれも東アジア諸国の制度、文化から古代日本のそれをみるという視点がつらぬかれている。

拝受 唐代初期の「士族」研究-李浩著『唐代文学<士族>の研究』の刊行に寄せて2011/09/16 19:50

川合安、唐代初期の「士族」研究-李浩著『唐代文学<士族>の研究』の刊行に寄せて、『集刊東洋学』第105号、2011年6月。

川合先生からいただいた。ありがとうございました。
 李浩著『唐代文学<士族>の研究』(中華書局、2008年)の邦訳『唐代文学<士族>の研究-関中・山東・江南の三地域に即して』(松原朗・山田智・石村貴博訳、研文出版、2009年)を内外の研究史の中に位置づけようとする内容。邦訳の解説において原著の「士族」が日本の中国史研究の「貴族」に相当するものと理解していることをふまえ、中国と日本における「貴族」「士族」研究史の性格を整理、また問題点などを論じる。

拝受 東晋南朝における建康の中心化と国家儀礼の整備について2011/08/21 13:38

戸川貴行、東晋南朝における建康の中心化と国家儀礼の整備について、『七隈史学』第13号、2011年3月。
戸川貴行、東晋南朝における伝統の創造について―楽曲編成を中心としてみた、『東方学』第122輯、2011年7月 。

戸川さんからいただいた。ありがとうございました。
 前者。江南に立脚した南朝史の理解のために「矯民の土着化」に注目し、当初は仮住まいとされていた江南における国家儀礼の整備と建康の中心化の過程をおう。
 はじめに、ではこれまでの東晋南朝史の視角について論じるが、「制度・思想などを積極的に評価する姿勢」と「国家の制度・思想如何といった点から」、各種先行研究の限界や問題点をあげる。ただこの論法では最初から東晋南朝史の手法が「国家の制度・思想などを積極的に評価する姿勢」に限定されているわけだから、そうでない先行研究に問題点が見出されるのは当然であろう。
 自分には国家儀礼の整備過程の検証も歴史学の一視点になる(先行研究であきらか)というくらいが妥当に思えるのだが。後者は前掲。

拝受 『汝南先賢伝』の編纂について2011/08/18 23:05

永田拓治、『汝南先賢伝』の編纂について、『立命館文学』第619号、2010年12月。
永田拓治、周斐『汝南先賢伝』輯本、『大阪市立大学東洋史論叢』第17号、2010年12月。

永田さんからいただいた。ありがとうございました。
 これまで魏晋南北朝期の門閥社会における郷里意識の現れであるとか、各地域の自己顕示などと捉えられてもきた数多くの「耆旧伝」「先賢伝」といった著作(ほぼ散佚)のうち、まとまった佚文が確認できる『汝南先賢伝』をとりあげ、その性格を論じたもの。「故人の事蹟を記録した人物伝が当該社会においてどのように機能し、その社会的役割を果たしていたか」に焦点をあてて論じられている。門閥社会論のみならず史学史的にみても興味深い題材。
 後者はその輯本。逐条、注釈が付され、巻末に参考文献一覧、索引、地図などがつく。B5版で53ページにもおよぶ労作。

新収 東方学 第122輯2011/08/08 19:19

『東方学』第122輯、2011年7月

戸川貴行、東晋南朝における伝統の創造について―楽曲編成を中心としてみた

 渡辺信一郎氏によって掘り下げられてきたテーマである国家儀礼に不可欠な雅楽がもつ政治的イデオロギーに注目、とくに劉宋孝武帝にいたるまでの整備状況を分析したもの。またそこに付加されていった北朝期における『周礼』的要素を意識しつつ、南朝の「伝統」が南北朝隋唐政権の帝国理念の形成に与えた影響を視野に入れて論が展開される。
 南北朝隋唐論であり、中華的世界観の分析のひとつにもなっている。

 『新修本草』序例もこうした中華的世界観で書かれているわけで、個々の語彙の歴史をしるうえで勉強になる箇所もあった。

 まったく雑感ではあるが、様々な言語でまた様々な形での「史料」が増大しつつある昨今、王朝の世界観の発展やその変化によって中国史を語ることの現代的意義、またそれを「中国」に住んでいない日本の研究者が語る意義は、熟考する必要があると思っている。史書から取り出された世界観は権力の本質を分析する一視点として有効である。
 ではそこからみいだされるものが「歴史」なのか。もっと多彩な視点からその時代を描けるのではないか。その視点のおきかたを自分で考えてみることが目下の関心である。

新収 魏晋南北朝唐宋考古文稿輯叢 ほか2011/08/01 18:34

宿白(著)『魏晋南北朝唐宋考古文稿輯叢』、文物出版社、2011年1月。
許逸民(校箋)『金楼子校箋』、中華書局、2011年1月。

前者は宿白氏がこれまで『文物』などに掲載してきた魏晋南北朝唐宋考古に関する論文を集めて整理したもの。古い記事でも自分にとっては北朝考古系でとくに興味深い記事が多い。金楼子は南朝梁の蕭繹の著作。南北朝史の研究者にはよく知られた本だと思っていたが、基本的に永楽大典にあつめられたものが今に伝わるもので、CiNiiiで検索するとこの書名を題名につけているのは日本語の論文では5点のみ。点校本がでるのははじめてだということで購入。典籍関係で興味深い記事がある記憶だったが、どちらかというと晋南朝の故事、志怪の記事が主体。また家訓的要素ももつとの先行研究の分析があるとおり。点校本がでたことでさらに今後頻用される気がする。

拝受 西北出土文献研究 第9号2011/07/12 17:57

『西北出土文献研究』 第9号、2011年5月。

【論説】.
町田隆吉、甘粛省高台県出土の冥婚書をめぐって
北村永、甘粛省高台県地埂坡魏晋3号墓(M3)について
高橋秀樹、酒泉丁家閘5号墓壁画胡人像に見られる氈と 「三角帽」
關尾史郎、敦煌新出鎮墓瓶初探ー「中国西北地域出土鎭墓文集成(稿)」補遺(続)-

【ノート】
赤木崇敏、ロシア蔵コータン出土唐代官文書Dx.18921,18940,18942

【訳注】
佐藤貴保、西夏法令集『天盛禁令』符牌関連条文訳注(下)

【集成】
玄幸子、サンクトベテルブルグ所蔵教煌文献(Dx.05001-05500)同定リスト(稿)

 編集にあたられた関尾先生からいただいた。ありがとうございました。前半4点が甘粛「文物」研究で、後半3点が俄蔵「文献」研究の様相をなしており、バラエティに富んだ内容。
 甘粛墓群出土資料は年代比定のむずかしい資料がおおく、本国の発掘調査方法が根本的に改善されることが研究を展開する前提になるとおもわれる。町田・關尾論文はそんななかで情報が割合豊富で年代比定がしやすい鎮墓文資料等を対象にとりあげ、墓葬文化を分析する。同じく墓葬に用いられた吐魯番文献(とくに衣物疏)の研究に通じるものがあるように思われる。
 赤木論文はとりあげた断片を「8世紀後半にコータンに駐留していた唐の鎮守軍やその麾下の軍事機関が発した文書」であることを同定したもので官文書の研究をする者には技術面で学ぶところが多い内容。

新収 日本医史学雑誌 第57巻第2号2011/06/23 00:31

『日本医史学雑誌』 第57巻第2号、2011年6月

 日本医史学会総会の演題の要旨が90点、載る。

天野陽介・小曾戸洋・町泉寿郎、『医学天正記』異本類の比較研究
真柳誠、『素問』の早期版本について
楊歓、唐代『張仲景傷寒論』の検討
多田伊織、唐代の散逸医書『古今録験方』から見た六朝期の散逸医書『僧深方』
遠藤次郎・鈴木達彦、新発見の医書『江春記抜書』と田代三喜
竹内尚、聿修堂の蔵書目録について

このほかにも興味深いものがたくさん掲載される。

拝受 『西北出土文献研究』2010年度特刊2011/06/22 17:22

『西北出土文献研究』2010年度特刊、2011年4月
 市来弘志、蘭州・高台・民楽調査日誌
 北村永、甘粛省高台県駱駝城苦水口1号墓の基礎的整理
 三崎良章、高台2001GLM1の記号的図像と補助文様について
 内田宏美、甘粛高台県許三湾墓葬群出土“塢堡”形木製品について
 荻美津夫、河西地域の磚画・壁画にみられる魏晋南北朝時代の楽器
 關尾史郎、高台研究の成果と意義

『隴右文博』2009-2010年合訂本、甘粛省博物館。

 ともに科研代表の関尾先生からいただいた。ありがとうございました。前者は高台県出土の資料の基礎的な整理を中心とした論考が並ぶ。論評できる立場にないので細かなコメントは避けるが、扱いにくそうな資料が多く、収録された論考は論点や結論に苦心している様子がうかがえる。どちらかといえば考古・漢代的要素からの分析を得手とする人には可能性のある題材があるかもしれないが、私のような北朝隋唐系(最近は古写本・古典籍)の研究者から見ると異世界であり、厳しい資料環境である。
 後者は重複した分冊を恵与いただいたようである。西夏関係の出土品の報告が多い。