拝受 中国昔話集2007/07/18 20:59

馬場英子・瀬田充子・千野明日香(編訳)『中国昔話集』(1)・(2)、平凡社東洋文庫、2007年4月。

馬場先生からいただいた。ありがとうございました。

 ヴァルフラム・エーバーハルト(1909-89、以下、エバーハルトに統一)の“Typen Chinesischer VolksMärchen”,1937で提示された各類型(タイプ)に「典拠」としてあげられた資料から代表的なものを一話ずつ選んで訳出した物語集。

 上のように書くと少し堅いが普通に昔話集として楽しめる。

 ただ、その構成には学術的なうらづけがあるということで堅い話を続ける。
 エバーハルトによる昔話分類の手法を現代の研究者に提示するという問題提起的な側面をもつと同時に、できるかぎり原典から訳出することで日本語訳として正確さにつとめたものとなっている。その意味ではエバーハルトの『中国の昔話のタイプ』の精粋であり、中国昔話研究の入門書としても恰好のものとなっている。

 蒐集された民話や昔話をどのように体系的に整理するかでそれらの意義はかわってくる。その点は日本の民俗学や欧米の神話、物語の分析方法にも共通している。少し枠を越えるが史料もおなじことだろう。

 2巻目に各話のエバーハルトの類型に関する要約と全ての典拠が示されている。同じく2巻目に掲載される「解説」から本書編集の意図がうかがわれる。
 なお、本書はおもに淅江および広東・福建の「漢民族地区」の説話をあつかう。一方でW・エバーハルト(著)、白鳥芳郎(監訳)『古代中国の地方文化-華南・華東』、六興出版、1987年は“The Local Cultures of South and East China,1968(原書はドイツ語、1942)の訳で、少数民族の昔話をあつかっている。
 『古代中国の地方文化-華南・華東』の序説の一部を引用する。

> 「国民」はおそらくは、一つの状態というよりむしろ一つの過程
>として記述されるべきであろう。・・・・キリスト生誕の時代に
>「フランス人」とは呼べないように、新石器時代には「漢」民族と
>いう言葉は使えない。

エバーハルトは昔話の隣接性、関係性から文化の複合形成のあり様を論じようとしている。また、この視点はエバーハルトの中国史の見方にもあらわれている。本書と『古代中国の地方文化-華南・華東』をあわせて読んでみるとエバーハルトの意図がより、みえてくるようにおもわれる。