新収 趙和平敦煌書儀研究 ほか2011/08/02 18:59

趙和平(著)『趙和平敦煌書儀研究』上海古籍出版社、2011年3月。
李樹輝(著)『烏古斯和回鶻研究』民族出版社、2010年12月。
聶志軍(著)『唐代景教文献詞語研究』、湖南人民出版社、2010年9月。

『趙和平敦煌書儀研究』は当代敦煌学者自選集の一冊で著名な研究者の研究の来歴やその全体像を見渡すのに適した内容。敦煌文献のうち相当な量がある書儀研究の意義を総括した章のほか、社会生活や口語、政権との関係など多方面からみた各論が収録される。敦煌文献研究はこれまで日本などの東アジアの写本との比較をとおしてすすめられてきた側面をもつが、本書には正倉院文書(杜家立成雑書要略)との比較がふくまれる。

烏古斯はテュルク系民族で24氏族によって成り立っていたとされる「オグズ」のこと。北方諸民族との関係への言及もあるがとくに突厥とウイグルとの関係などについて研究がなされている。突厥文索引が付く。

景教文献詞語研究は著者の中山大学の博士論文をもとにしているという。敦煌漢文文献P.3847(景教三威蒙度贊・尊経)、一神論、志玄安楽経、大秦景教宣元本経、序聴迷詩所経、大秦景教流行中国碑などに用いられている語彙を他の宗教文献などと対比しながら分析したもの。中古音とシリア語との対比をしているところも若干みられる。中国の先行研究を中心に丁寧に紹介がなされている。洛陽の石幢への言及はあるが、一神論、志玄安楽経、大秦景教宣元本経、序聴迷詩所経が包含された敦煌秘笈への言及はない。すでに中国でも何本も敦煌秘笈に関連する論文が出ているがまだその認知度は低いようである

 欧文文献の引用が少なく前掲の高橋英海論文への言及もないが、近接した分析といえる。
http://iwamoto.asablo.jp/blog/2010/08/29/5313066

新収 輔行訣五蔵用薬法要伝承集2011/08/02 21:14

陶弘景(撰)張大昌・銭超塵(主編)『輔行訣五蔵用薬法要伝承集』、学苑出版社、2008年9月。

遅ればせながら購入。『輔行訣五蔵用薬法要』は敦煌医薬文献の一点とされるもの。張偓南氏が1918年に得て、孫の張大昌氏に伝えられたが、原巻は文革中に失われ、その内容を張氏やその弟子たちが書写した抄本数種が今に伝えられている。この本はその抄本21種(!)を収録し、考察をくわえたもの。抄本の写真も多数載せられている(ただし達筆すぎて読めないものが多い)。最初に公刊されたのは1998年の『敦煌医薬文献輯校』に収録されたもので、小曽戸先生の著書にも言及がある。内容的に見て唐代の処方の可能性が高いものが多数含まれるとされる。文革で破壊された文化財の一例と言えるが、この復原作業は失われた文化財をとりもどそうとするだけでなく、そこで失われた自分たちの時間をも取り返そうとする執念そのものにも思える。

王雪苔(編著)『輔行訣五蔵用薬法要校注考証』、人民軍医出版社、2010年5月(四刷)。

以上の抄本のうちとくに古いと思われる二点からテキストを作成、校注および考証を付したもの。前掲伝承集は本書に言及しており、一刷は2008年前半に刊行されたはずだが、なぜか第一次印刷の時期が省略されているので上記のようになった。なお、Webで調べた限りでは著者は鍼灸の大家として世界的に認知されており、日本語も学んでいた親日家であったようだが、2008年9月に歿している。

なお天漢日乗さんの「超あやしい敦煌写本」エントリーが参考になる。  どんな国の文化財であろうと、また悲劇的に破壊されたものであろうとそれを残して検証していくことが未来のためになるのだとは思う。